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僕が思っていたよりもずっと
僕が思っていたよりもずっと

 

昨日までの雨が嘘のように晴れ渡っていた

このまま季節はきっと夏に向かって行くのだろう

そして今日のテストが終れば夏休みはすぐそこだ

・・・にもかかわらず、学校へ向かう洋介の足取りは重かった

足取りだけでなく心も

テストの出来が気掛かりなのではない

洋介はまだ高校2年生だ

成績が少しくらい悪くてもどうでもよかった

彼を悩ますことは他にあった

この数日そのことだけを考えていた

そして今も

駅から校門まで続く道を洋介はうつむきながら歩いた

あと数歩で校門という所で洋介は声をかけられた

「おはよう!」

洋介と同じクラスの田村千鶴だった

「今日で終わりだね、テスト。ちゃんと勉強した?」

「まあな」

「学校終ったらさぁ、どっか行こうよ。今日は部活休みなんだ」

「そうだな」

「試験中は全然遊べなかったもんね。今日はハメ外しちゃお?」

そんなことを話しながら2人は並んで歩いた

「映画見よっか?あ、その前にランチだよねー」

「うん」

「駅の向こう側にねぇ、パスタ屋さんができたらしいよ」

「へえ」

「安くってボリューム満点なんだって。先輩が言ってた」

「そうなんだ」

「行ってみる?」

「行こうか」

「じゃあ、決定!」

2人は教室に着いた。

「それじゃ、お互い頑張ろうね」

千鶴はそう言うと自分の席についた

洋介も教室の後ろの方にある席へ向かった

すると悪友の1人が声をかけて来た

「よう、朝から見せつけてくれるねぇ」

「そんなんじゃねぇよ」

「そんなこと言って、テスト終ったら2人でどこか行くんだろうが」

「どうでもいいだろ、そんなこと」

「うらやましいヤツ。俺も彼女欲しいよ」

そこへテスト用紙の束を抱えた教師が入って来て

会話は中断された

「彼女、か・・・」

他人に言われるまでもなく田村千鶴は洋介の彼女だ

少なくとも今の時点では

洋介は千鶴に告白した時のことを思い出してみた

1年生の3学期だった

去年も2人は同じクラスだった

周りから見ても何となく「イイ感じ」の2人の関係だったが

けじめをつける意味で

あるいは友人達から背中を押される形で

洋介は千鶴に「付き合ってくれ」と告げた

それに対して千鶴は静かに「いいよ」と言った

その時の千鶴の表情を洋介は忘れられない

好ましい返事の内容とは裏腹に

彼女の表情は限り無くニュートラルだった

洋介はその顔を見て一瞬自分がフラれたのかと思った

それで彼が黙っていると千鶴は

「いいよ。付き合おうよ、私達」

と、もう一度言った

その日から2人は何をするのも一緒だった

毎日下校する時も

休日にどこかへ出かけるのにも

いつでも2人一緒だった

しかしいつからだろう

そんな関係にある種の「うっとうしさ」を感じるようになったのは

千鶴は洋介の行く所ならどこへでも一緒に行きたがった

洋介のすることなら何でもやりたがった

初めの頃はそれが嬉しく思われた

でも今ではもうそんな気持ちになれない

決して千鶴のことを嫌いになった訳ではない

それは確かだ

だが付き合い始めた頃と同じ感情があるとは到底言い難かった

いつでも洋介と一緒に居たがる千鶴

そうだ、あいつは俺がいないと何にもできなくなっちまった

そうさせたのはこの俺だ

あいつの為にも俺達は別れた方が良いんだ

「千鶴と別れよう」

洋介はそう答を出した

決心がついた洋介は今度は

答案用紙に書くべき答を考えることに集中した

 

その日の午後

洋介は千鶴と2人で

開店して間もないパスタ屋で昼食をとった

別れる決心はしたものの

言い出すことはなかなかできない洋介だった

それは千鶴を傷つけることに対する恐怖感

彼女は泣くかも知れない

それとも洋介の頬をひっぱたくかも知れない

千鶴だけではない

クラス中の女子からまとめてシカトされることもあり得る

しかし千鶴は洋介の思い悩んでいることなど

気がつかない様子で喋り続けた

「でねぇ、その映画が超ウケるんだって」

「へぇ・・・・」

「すっごいマイナーらしいんだけどさぁ

あれは見る価値あるってみんなが言ってたよ」

「そうなんだ」

「見に行こうよ」

「今日か?」

「う〜ん、別に、今日でなくても。もうすぐ夏休みだしね」

「ああ」

「じゃ、今日はこれからどうしよっか」

「そうだな・・・」

2人はパスタ屋を出た

洋介はどこへ行くともなく駅前通りを歩いた

千鶴はずっと洋介に連れ添っていた

2人は目的もなくだらだらと歩き回った

彼女のおしゃべりは途切れることがなかったが

その口から不平が漏れたりはしなかった

今日に限ったことではない

千鶴が洋介に対して不満をこぼしたりするようなことは

洋介が覚えている限りただの一度もない

それが物足りないのかな、と

洋介はふと思った

駅前通りをまっすぐ行くと

大きな産業道路に突き当たる

そこで商店街は終点だ

2人は横断歩道を渡って

産業道路ぞいの市民公園に入った

「あたし達がテストで苦しんでる間にもうすっかり夏だね」

「夏だな」

「夏休みに何しようかなぁ」

きっとこのあと千鶴は

夏休みの予定を立てようと言い出すに違いない

洋介はそう思った

こいつは俺無しでもやって行かなければいけない

これ以上俺達は一緒にいてはいけない

もしそのことで千鶴を傷つけることになっても

別れを告げるのは俺の義務だ

洋介は心を決めた

「ちょっとさ、ベンチで休んで行こう」

「そうだね、疲れちゃった」

2人は木陰にあるベンチに腰をおろした

平日の午後早い時間ということもあって人はまばらだ

木漏れ日をまぶしそうに見上げて

千鶴が呟いた

「やっぱ、夏はとりあえず海だよねぇ」

「・・・・・・」

「今日これから行っちゃうっていう手もあるかぁ?」

「あのさ、千鶴・・・」

洋介は重い口を開いた

「どうしたの?」

「俺達、別れた方がいいと思う・・・」

洋介はうつむいたままそう告げた

千鶴は黙っていた

洋介はとにかく言葉を続けなければならなかった

「このまま付き合っててもお互いダメになっちゃうっていうか

  ・・・その、つまり俺がお前をダメにしちゃうような・・・

  お前のこと嫌いになったって訳じゃなくて、その・・・」

「いいよ」

不意に千鶴は洋介の言葉をさえぎった

「えっ?」

洋介は千鶴に向き直った

千鶴はまっすぐに洋介の顔をみつめていた

「いいよ、別れても。洋介君がそうしたいなら別れよう」

「千鶴・・・」

彼女の表情は限り無くニュートラルだった

「あたし、もう帰るね」

「俺さ・・・」

「これからも友達でいようね」

千鶴の顔にふわっと笑顔が浮かんだ

その優しい笑顔に洋介は衝撃を受けた

全身が砕け散るのかと思うほどの衝撃だった

「じゃあ、また明日ね」

千鶴は立ち去った

流れた風が静かに木漏れ日を揺らした

洋介は今受けたショックの大きさに身動きすらできずにいた

「いいよ」そう言った時の千鶴の表情は

限り無くニュートラルだった

その言葉も、その表情も

洋介が告白した時と同じだった

しかしそれよりも洋介の心に突き刺さったのは

千鶴の笑顔だった

何かを隠すための笑顔ではなかったからだ

千鶴の笑顔は今までで一番優しく見えた

彼女は傷付いてなどいなかった

むしろ安堵の表情さえ読み取れた

「俺は一体何だったんだ」

「俺は千鶴の何だったんだ」

洋介は呼吸が止まるほどの衝撃に胸が潰れそうだった

彼女は傷付いてなどいなかった

洋介は別れ話をしに来たはずだった

言うなれば千鶴を「振る」はずだった

「ちがう、振られたのは俺の方だ」

もし千鶴の方から別れを告げられても

こんなにも痛手を受けることはなかっただろう

鮮やかなカウンターパンチだった

千鶴にその意志がなかったにせよ

洋介は強烈なお返しを食らったのだ

「返り打ちにあったってヤツか・・・」

洋介は自嘲ぎみに呟いてみた

それで少し気が楽になった

洋介はベンチからゆっくりと立ち上がった

夏の日ざしが公園全体を照らしている

彼は木陰から出て

先ほど千鶴と2人で歩いて来た道を駅へと向かった

太陽光線はジリジリと照りつけて

洋介の胸をいっそう息苦しくさせた

それでも彼はもう一度千鶴の最後の笑顔を思い出してみた

あの笑顔は一瞬にして

洋介に全てのことを気付かせてくれたのだ

洋介が思っていたほどには

千鶴は洋介に依存してはいなかった

洋介が思っていたよりもずっと

千鶴は強い少女だった

むしろ頼っていたのは自分の方だったのかも知れない

洋介は思いを巡らせた

そして今さらのように辿り着いた答・・・

洋介が思っていたよりもずっと

洋介は千鶴のことが好きだった

(完)

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